2022.02.18
相続税では、遺産総額から債務・葬式費用を控除した残額が、基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えると相続税がかかります。
「債務控除」をめぐって国税不服審判所で争われていた事案で、納税者にとって厳しい裁決が下りていましたので、債務控除の注意点と共にご紹介します。
◆「債務控除」の範囲や内容・注意事項は・・・?
債務控除の対象となる債務は、「被相続人の債務で相続開始の際に現存するもので、
確実と認められるもの」に限られています。
よく問題になるのが、この「確実性」になりますが、
通達では「必ずしも書面の証拠があることを必要としないものとする。
なお、債務の金額が確定していなくても当該債務の存在が確実と認められるもの」は
控除できるとしていて、“履行の確実性”が問われることになります。
従って、被相続人に課される所得税準確定申告などで、死亡後に相続人が申告・納付するような税金や、死亡直前までの成年後見人・後見監督人の報酬などは、
その金額の確定が死亡後であったとしても、
被相続人の死亡時には確実な債務としてあったと認められ、債務控除の対象とすることができます。
具体的には、相続開始時点での借入金や未払医療費、未払の公共料金、生前に購入したクレジットの未決済分、預かり敷金などが該当します。
なお、次のような点にも注意が必要です。
(1)お墓など非課税財産の未払金に関する債務は不可です。
(2)債務控除ができるのは日本国内に住所がある相続人や包括受遺者(日本国内に住所がない相続人等は条件付)で、相続人以外の特定受遺者は不可となります。
(3)まだ履行義務が生じていない保証債務は原則不可です。
(4)団体信用生命保険付き住宅ローンは死亡により住宅ローンが消滅(返済)し債務控除は不可となります。
(5)相続税申告のための税理士報酬や遺言執行費用、相続財産の維持管理費用など相続開始後に生じる相続人が負担すべき費用は不可です。
◆ 確実と認められなかった親族借入金・・・!?
昨年12月に公表された裁決事例をご紹介します。
これは、子の所有する建物を親が買い取る契約(子の未償却残高相当額での建物売買契約)について、建物の相続税評価額(固定資産税評価額)との差額が相続税の軽減効果が期待できるとして、相続開始直前に行われていたものです。
代金決済はせず、親子間で金銭消費貸借契約を締結し、いずれ混同(民法)により消滅させるために、親は子からの借入金をほぼほぼ全額残しての相続となり、その後調査で債務控除が否認されました。
国税不服審判所に移って下された裁決では、「本件債務が履行を予定していないこと(中略)いずれ混同で消滅させるべき債務を、いわば名目的に成立させたにすぎない」として、その建物の経済的価値(審判所ではこれを相続税評価額=固定資産税評価額とした)を超える部分については、相続税の債務控除の対象となる「確実と認められるもの」には該当しないとされたのです。
親族・同族間取引では、この混同等を予定して代金を決済しない例が間々あるため、名目的と捉えられないように注意しなければなりません。